段階を追って辞書に慣れさせ,辞書を使いこなす力をつけさせてゆく事例
2013年3月取材
宮澤久幸先生(長野市立信更中学校)の授業実践
- ・辞書は自分で勉強するときのよりどころ
- ・英和辞典は全員に持たせる
- ・引いた語には○をつけさせる
- ・最初は1時間,次からは5~10分ずつ指導
- ・発音と意味は必ず読ませる。全ての意味に目を通させる
- ・紙の辞書のメリットを生徒に気づかせる
■辞書は自分で勉強するときのよりどころ
辞書は自分で勉強するときのよりどころとなる。辞書がないと受け身で,自分で調べて勉強する,ということができなくなる。
■英和辞典は全員に持たせる
英和辞典は全員に持たせる。和英辞典はあったら役立つというアドバイスをする程度だが,持つことを奨励する。
■引いた語には○をつけさせる
引いた語には○をつけさせる。何色でもいいので引くごとに○。これだけ勉強したという自信+自分にとって大事だと見てわかる。1~3年までずっとやっていると,3年になって受験勉強をするとき効率的になる,と指導。「○をつけながらよく引いたら,3年くらいになったら自分の学習の履歴が目で見てわかるよ。今はみんな同じだけど自分の辞書ができるよ」と言って教師自身の使っていた辞書を見せる。手の脂で真っ黒で,引いていない(○がない)ページがないことを見せる。
■難しすぎる辞書は使わせない
高校生用の辞書は「きみにはまだ早い」と言って,中学生用を買ってもらう。
■同じ辞書で指導する必要はない
クラスの中にいろいろな辞書があるといい。同じ辞書で指導する必要はない。発音のカタカナ表記などの違いを指導できる。
■特別支援学級こそ辞書が必要
特別支援学級こそ辞書が必要だと思うので,辞書を使わせる。自分で調べて解決できるようにさせる。
■電子辞書は初学者レベルを卒業してから
紙の辞書を持たせることについて電子辞書を持っている親から文句が出たこともあったが,話したらわかってくれた。基礎が身につき,単に語の意味がわかればいい段階になったら,使ってもいいと思う。
■常に辞書を用意
辞書を忘れてくる生徒のために,常に何冊か辞書は用意しておく。
■辞書指導は1年7月~11月ごろまで
1年の7月(期末試験が終わったころ)~11月ごろまで辞書指導をする。この時期は辞書の持ち帰り禁止。家でも引かせたいが,持ってくるのを忘れる生徒がいるため。
■最初は1時間,次からは5~10分ずつ指導
最初の時間は,1時間かけて辞書のしくみや引き方のコツなどを指導する。次からは,授業の最初に5~10分,辞書を実際に引かせながら辞書に慣れさせるために指導する。
■文字指導は5月くらいに
文字指導は,5月くらいに大文字→小文字の順で行う。ローマ字も指導する。ローマ字が書けない生徒がいるし,フォニックスまではやらないが,ローマ字がわかればある程度発音のあたりがつけられる。ヘボン式を教える。
■最初の辞書指導
- ①目分量で真ん中のページを開けさせ,何の字が出ているか聞く。だいたいMかNが出るので,「辞書の真ん中はM」と指導し,Mを目安にアルファベットの中の位置を認識させる。
- ②次に,「Aの部分の真ん中は?」と聞き,これもmであることを確認させる。
- ③柱の文字がページのどこにあるか聞き,それが最初と最後の語であることを認識させる。そして,語を探すときに,本文の中に入り込まなくても柱だけ見ればいいことを確認する。
- ④実際にいくつかの語を引かせてみる。
- ⑤次に,どの辞書でもtogetherを引かせる。辞書によりいろいろなカナ発音の表記があるため。カナ発音を比較させて書き出させる。発音記号はどの辞書も同じだが,カナ発音の表記は辞書によって違いがあることに気づかせる。これにより,カナ発音は目安であることを認識させる。発音させてみる。この時点だとまだ書いてあることをそのまま(強勢など)再生できない生徒もいるので繰り返させる。
■発音と意味は必ず読ませる。全ての意味に目を通させる
引かせるときは,まず全員立って引かせ,見つかったら座るという形。教師が回って必要に応じて援助する。早く引けた生徒には「まず発音を確認しなさい」「意味は全部読みなさい」「前後の単語も読みなさい」と指導。
■関連する単語を3つ引かせる
しばらくすると関連する単語を引かせる。3つ。たとえば季節ならspring, summerなど。「今日は○○シリーズ」と出題。全部知らないと引くのがいやになってしまうので,日本語として知っている単語2,知らない単語1,くらいの割合で行う。
■反意語・同意語にも注目させる
反意語・同意語の「反」「同」などの記号を指して,「これは何?」と質問し,反意語・同意語に注目させる。その語を特に引かせはしないが,気の利いた生徒は引いている。
■単語に飽きてきたら文を引かせる
単語に飽きてきたら(10,11月ごろ),文を引かせる。たとえば,ことわざ。Time flies.を与え,どの語を引いたらいいか考えさせる。文の最初にあるTimeを引く生徒が多いが,fliesを引いた生徒は「flyの三単現」という語義しかなく意味がわからないので,flyまたはtimeを引くようにアドバイスする。どの語で見つかるかは辞書によっても違うことに気づかせる。「辞書を引くといろんなことがわかるね」と指導。次にThe early bird catches the worm.を探させる。文頭のtheを引く生徒が意外に多い。「長めの単語を引くと見つかる場合が多い」と話すと,多くの生徒がearlyまたはcatchesを引いて,この文を見つける。
■句動詞を引く練習をする
句動詞なども引かせる。たとえば,生徒はI get up early.(Iとearlyは既習)のgetとupがわかっても,全体の意味がわからない。最初は何も教えずに引かせると,生徒はget upという見出し語があるのだと思う。辞書によって両方の語にのっていたり片方だけだったりする。なかったらほかの語を引く練習をする。引く語は既習語でなくともいい。
■現在分詞や過去形などを調べさせる
中学生用の辞書の場合,名詞の複数形,動詞の現在分詞形や過去形・過去分詞形(規則動詞の場合も)がのっているので,children,seeing,went-goneなどを導入する場合にも辞書は有効である。不規則動詞の過去形をいくつか調べさせたあとに,辞書には巻末に「不規則動詞変化表」がついており,より早く過去形などを見つけられることを指導する。
■先生と生徒の早引き競争も
先生と生徒の早引き競争も行う。ハンデあり。自分自身はPCの辞書を使うことが多くなったのでずいぶん遅くなった。でもたいがい負けない。たまに生徒が勝つと生徒は大喜びする。
■余裕があればスクラブルも
語の意味を知らなくても辞書があればできる。辞書を使わせながらの英語のしりとりも盛り上がる。
■紙の辞書のメリットを生徒に気づかせる
以下のような紙の辞書のメリットを,紙の辞書を見ながら生徒に気づかせる。
- ①苦労して引くので単語を覚える。
- ②派生語などにもすぐに目がいく。
- ③分量感。どの文字で始まることばがどのくらいあるか(sが多いなど)がわかる。
- ④-eの語が多いことがわかる。
- ⑤qから始まる語で,q+uでない語はないことがわかる。(英語は本来的にはそうだが,Qatarのような語を見つける生徒も出てくる。が,それはそれでまた話のネタにできる)
■3年の最初に再度辞書指導
3年の最初に,読み物を読ませるときにまた使う。1時限はかけないが。辞書を使うことが受験勉強にも役立つことを教える。