校長先生自らが辞書引きの導入授業を実践!
1年生で漢字辞典、2年生で国語辞典の辞書引きに取り組まれている事例
愛知県北名古屋市立師勝北小学校
- ●学校概要
- 愛知県北名古屋市(人口約8.2万人)の小学校。
児童数は各学年約80名で、学級数は各学年3学級。 - ●お取り組み学年
- 1年生(漢字辞典)と2年生(国語辞典)
- ●お取り組みの開始時期
- 2011年10月~
- ●お話を伺った先生
- 森 享 校長
「自分で調べてみる」「辞書を引くことに慣れる」を目標に、1年生で漢字辞典、2年生で国語辞典の辞書引きを実践している。
国語の授業時間中の15分~20分程度を辞書引きの時間にあて、独自に作成したプリントを使って導入。最初は校長先生が指導にあたり、導入後は各担任がそれぞれ取り組んでいる。
半年足らずで、多い子は1500枚ほどのふせんを付けている。
森 享 校長
校長先生自身が以前から「辞書引き学習」に関心があり、まずは自身の孫(当時小学3年生)に辞書を持たせてみたが、競う相手のいない家庭ではなかなか「辞書引き」が進められなかった。そこで、学校で実践してみようと考えたのがきっかけ。
1年目のお取り組み(2012年2月取材)
<1年生の漢字辞典指導>
■漢字への興味とともに漢字辞典を
漢字を習い始め、漢字に興味が湧いてくる10月初旬より、漢字辞典の辞書引き指導を開始。
最初は国語辞典と漢字辞典の両方を同時に持たせようと思ったが、先生方で検討したところ、2冊同時の指導は難しい、また教室での置き場所の確保が難しいということで、1年生にはまず漢字辞典のみを導入することになった。
■保護者にも、ふさわしい辞典の購入を依頼
保護者には、児童それぞれに辞書を準備してもらうよう文書で依頼した。卒園記念などですでに所持していることもあるが、教育漢字しか収録されていない学年別の漢字辞典のような場合は、授業で活用できないので、学習を進めるのにふさわしい辞典を買い直していただくよう保護者には理解を求めている。
ふせんは最初は100枚学校で用意し、以降は各家庭での準備をお願いしている。
■校長先生作成のプリントを使って「辞書引き」を開始
実践の際は、国語の授業時間の5~10分ぐらいを使う予定で、「辞書引き」を開始。最初のうちは、20分以上かかることもあったが、だんだんペースがつかめてきた。
導入部分は、校長先生作成のプリントを使用し、その後は各担任がそれぞれ進めていく。
「辞書引き」の進め方の概略は以下の通り。詳細は、辞書引き学習の進め方(1年「漢字辞典」)を参照のこと。
「辞書引き」の進め方
- ①読み方が分かっている漢字を、「音訓索引」を使って辞書で引く。
- ②身の回りにある読み方の分からない漢字や担任の先生の名前を「総画索引」で引く。
- ③身の回りにある読み方の分からない漢字を 「部首索引」で引く。
- ④自分や家族、友だちの名前に使われている漢字を3つの引き方のどれかで調べる。
- ⑤クイズ形式でいろいろな問題を出し、部首や漢字、熟語に親しむ。
なお、取材時段階では、⑤は未実施。
④では自分の名前にこめられた親の願いを感じ取らせたかったが、最近の子どもの名前は音やイメージを重視しているものが多く、漢字の意味を知る素材としては課題があったかもしれない。
横にしたケースに辞典を縦に置いて収納している
■漢字は配当漢字にとらわれず板書
児童にはできるだけたくさんの漢字を読めるようになってほしい、との思いから、板書する際は、配当漢字にとらわれず、なるべく漢字を使うよう、担任の先生にお願いをしている。難しい漢字にはふりがなをつけて板書してもらっている。
■なぜ「漢字辞典」の辞書引きから始めたのか
教科書では、3年生で国語辞典の引き方を学んだ後、4年生で漢字辞典について学習する流れとなっているが、次の理由により、漢字辞典の辞書引きからスタートしている。
- 50音の順番が頭に入っていないとなかなか引けない国語辞典よりも、習い始めの画数の少ない漢字であれば、1年生にはむしろ漢字辞典のほうが引きやすいのではないかと考えた。
- 学年が進むにつれ、漢字を苦手とする子どもが多くなっていく傾向があり、学習のスタートラインが同じ1年生で漢字辞典を導入し、漢字に興味を持たせたい、漢字を好きにさせたいと考えた。
- 1年生にとっては、曲線的なひらがなよりも、むしろ直線の多い漢字の方が書きやすいようだ、との実感がある。辞書引き学習では、ふせんに引いたことばを書くので、そういった意味でも1年生への漢字辞典導入は適しているのかもしれない、と考えた。
■子どもたちがここまで漢字が好きだとは!
指導を始めて半年足らずだが、実際、漢字辞典に苦手意識を持つ子どもはいない。学年主任の先生からは、「子どもたちがここまで漢字を好きだとは思わなかった!」という言葉が聞かれた。
一部の子どもではなく、どの児童もまんべんなく辞書引きに夢中になった。
図鑑を見るような、勉強というより何か楽しいことをしているという感覚で、辞書を引いている。
■さらに、「部首」を意識した学習へ
最近では、新聞の経済面の記事を拡大コピーし、習ったばかりの「貝」のつく漢字を探す、というような学習も行った。個々の漢字の意味は分からなくても、「貝」がたくさんの漢字を構成する一つの要素である、という感覚(部首の概念)が身につくといいと感じている。
実際、1年生で学習する漢字は部首になるものが多いので、そういう意味でも部首をきちんと意識させたいと考えている。
■新学習指導要領を追い風に
辞書引きの指導は、ある程度しっかり時間を取らなければ定着しないと今回あらためて感じている。1年生については、2011年度より国語の授業数が増えたため、より丁寧な指導を行うことができた。そういった意味で、新学習指導要領は追い風になった。
<2年生の国語辞典指導>
■1年生と同時期に、2年生には国語辞典を導入
1年生の漢字辞典と同じく、2年生の10月から国語辞典の辞書引き指導を開始。
指導方法も1年生と同様に、国語の授業時間の一部をあて、導入部分を校長先生が、その後は各担任の先生が担当している。
手順の概略は以下の通り。詳細は、辞書引き学習の進め方(2年「国語辞典」)を参照のこと。
「辞書引き」の進め方
- 1)辞書に親しみ、辞書引き学習の進め方を理解する。
- ①辞典の適当なページを開き、知っていることばを見つけ、ふせんを貼る。
- ②テーマを決めて、5~6個ことばを選び、辞書で早引きする。
- ③調べたことばの解説から、新たにことばを見つけて、辞書を引く。
- 2)辞書を楽しく引きながら、辞書のルールを学び、理解する。
- ①「あ」~「ん」で始まることばを示し、5分間で引く。
- ②2つのことばを示し、どちらが先に出てくるか、辞書を引いて確かめる。
- 3)辞書を楽しく使いながら、辞書の持つ機能を学ぶ。
- ①辞書の語義の説明から、ことば(見出し語)を推測する。
- ②条件に当てはまることばを辞書で探す。(例:辞書を引きながらしりとり)
- ③同音異義語を辞書で引く。
- ④反対語を辞書で調べる。
■辞書引きは遊び感覚
2年生でも、辞書引きは勉強ではなく、遊び感覚。引くのを嫌がるということはない。辞書によって、同じことばの説明が違っていたりするのも、子どもたちにとっては楽しいようだ。
初期の段階で、辞書のつくりに基づく引き方を簡単に指導したが、2年生にとってはまだ理解が難しいようである。習うより慣れろで、ゲーム感覚でいろいろなことばを引き慣れていくうちに理解を深めていければよいかと考え、学習を進めている。
辞書引き指導は読み聞かせと同じで、子どもたちはすごく喜んでいる。授業時間が余った時に、「読書」か「辞書引き」か好きな方を選ばせると、半数以上の子どもは「辞書引き」を選ぶ。 「今日は読書にしよう」といった子でも、本の中に知らないことばや漢字が出てくると、そのまま「辞書引き」を始めてしまう子もいる。
1年生の漢字辞典と同様、2年生のどの国語辞典にもふせんがびっしり
- 新出漢字を先取りして調べ、「音読み」はこれ、「訓読み」はこれ、と先生に教えてくれる子もいる。
- 特に外で遊べない雨の日などには、知らない漢字を辞書で引いて、友だち同士で教え合っている。宝物探しのような感覚で辞書を引き、「どうやって引いた?」「部首で引いた」というような会話がなされている。
- 授業中に「これはどんな意味かな?」と発問すると、すぐに辞書を取りに行き、調べる姿が見られるようになった。
- 小学生用の辞書に載っていないことばを、校長室に置いてある大きな辞典で調べに来る子もいる。
- 低学年はきっかけをつかんだので、このまま辞書を引く習慣を身につけてくれれば、自分で学んでいってくれると思う。次の展開としては、もう少し上の学年にも辞書引き学習を取り入れたい。
具体的には4・5年生向けに、もっと辞書の内容に踏み込んだ辞書引き、文章をしっかり読む力や語彙力をつけるための辞書引き学習を展開したいと考えている。 - 一番の課題は、教師一人一人の意識をいかに高められるかということ。先生自身が漢字やことばに興味を持ち、面白がらないと、子どもたちに楽しく学ばせることはできない。
2年目のお取り組み(2012年11月取材)
<1年生の漢字辞典指導> ~修正点を中心に~
■授業で3つの引き方を習得⇒プリントを使った朝学習などでどんどん辞書引きに慣れる
1年生の漢字辞典の導入は、音訓索引⇒総画索引⇒部首索引の順序に行う。
下記の進め方では<第1段階>~<第3段階>がそれに当たる。
昨年度の実践をふまえ、マニュアル・プリントに改訂を加えた。
昨年実践してみて、プリントの分量は1時間で片面程度が適当であることがわかったため、それをふまえた手順とした。
また、プリントにおいては、読み方を音訓別に分けさせるように改訂した。音読み・訓読みの別は1年生にとっては難しい概念かと思ったが、「訓読みは、ことばの表しているものが分かる読み方、音読みはそれだけでは意味が分からず、他の字とくっついた時に多い読み方だよ」というふうに伝えるとある程度理解しているようだ。その他、漢字を「なぞる」ところを大事にした。「なぞる」ことにより、書き順の大まかな決まり(左から右へ、上から下へ、貫くものは最後に)が分かり、また、難しい字も書けて達成感を持つことができるため。
辞書引きの進め方【修正版】
<第1段階>「音訓索引」を知り、辞書の引き方と学習の進め方に慣れる。
- ①読み方が分かっている漢字を、「音訓索引」で引く。
- ②「音訓索引」での引き方に慣れる。
<第2段階>「総画索引」を使った引き方を知り、辞書の引き方に慣れる。
- ①身の回りにある読み方の分からない漢字を 「総画索引」で引く。
- ②「総画索引」を使った引き方に慣れる。
<第3段階>「部首索引」で辞書を引き、辞書の引き方に慣れる。
- ①身の回りにある読み方の分からない漢字を 「部首索引」で引く。
- ②「部首索引」を使った引き方に慣れる。
<第4段階>漢字に親しみ、辞書の引き方にいっそう慣れる。
- ①自分や家族の名前に使われている漢字を3つの引き方のどれかで調べる。
- ②隣の子の名前に使われている漢字を3つの引き方のどれかで調べる。
<第5段階>部首や漢字、熟語に親しむ。
- ①部首の意味に関心を持つ。
- ②部首の意味に親しむ。
- ③漢字の中で使われている位置で、部首を仲間分けする。
- ④漢字の成り立ちを楽しんで調べたり、同じ部首の漢字を調べたりする。
<第6段階>
学習の中で出てきた漢字の読みや意味、成り立ちや用例などを、辞書を引いて調べたり確かめたりする。
<年度末に>
「辞書引き学習」を振り返り、これからも積極的に辞書を使っていこうという気持ちを高める。
■マニュアルを改訂・整備
学校内で広め、継続していくために、マニュアルを詳細に改訂。手順ごとに使用するプリントもすべて用意し、辞書引きに初めて取り組む先生でも、プリントを使って、マニュアルどおりにやれば授業が成立するよう整備した。
※詳細は、辞書引き学習の進め方(1年「漢字辞典」)【修正版】を参照のこと。
漢字辞典・国語辞典ともにふせんがビッシリ
実施2年目を迎えたが、昨年度同様、子どもたちは楽しく積極的に辞書引きに取り組んでいる。クラスや個人ごとに引き方を会得したり実際に引く際のスピードの差はあるが、それぞれに楽しんでいる様子。1年生でも多い子は1ヶ月で70~80枚のふせんをつけた
昨年度辞書引きを行った新2・3年生については、ずいぶん迷ったが、進級に合わせて、ふせんをすべて外すことにした。が、思い入れの強い子はふせんを外すことを嫌がって、学校に新しい辞書を買って持ってきた。せっかくの1年間の成果を目に見える形で残していく方が子どもたちの自信にもなるので、今後はふせんを外さずにそのまま6年間続けさせていきたいと考えている。
辞書引き学習における課題は、子どもたちの取り組みをいかに継続させるかだと考えている。子どもたちに、辞書引きに向かうきっかけや、継続のための刺激を与えるのは教師の仕事。そのためには教師自身が漢字に親しみ、楽しむことが重要で「ほめて育てる」ことを意識してことばを掛けていってほしいと思う。