発達段階にあわせて全学年で辞書引き学習に取り組み、
「言語事項」の力のアップに効果を出されている事例
2013年3月取材
香川県綾川町立昭和小学校
- ●学校概要
- 香川県綾川町(人口2.6万人)の小学校。
全校児童数は251名で、1学年1~2クラス。
通常学級11学級、特別支援学級3学級の計14学級。 - ●お取り組み学年
- 1~6年(国語辞典)
- ●お取り組みの開始時期
- 2012年度~
- ●お話を伺った先生
- 校長 岡内 利文 先生
山﨑 秀美 先生(5年生担任)
川邉 真由美 先生(1年生担任)
校長先生のリーダーシップのもと、保護者の理解を得て全学年で2012年度より取り組みをスタート。
1~6年、それぞれの発達段階に合わせた取り組みを工夫し、暗唱など、その他の取り組みとの複合的な効果で「言語事項」の力のアップに明確な効果を出されている。
岡内 利文 校長先生
昭和小学校の子どもたちは非常に素直でまじめに学習に取り組む子が多いが、自分で考えて自主的に行動する、というところが弱いと感じていた。
辞書引き学習によって、自ら学ぶ、という自主的な姿勢をつけさせたいと考えた。
また、ことばの力はすべての学力の基礎であるということから、表現力や読解力の基礎となる語彙力を高めたいと考えた。
2012年の4月、岡内校長先生の着任と共にスタート。
先生は、前々任校である宇多津北小学校時代、当時深谷圭助先生が教頭先生をされていた立命館小学校で辞書引き学習の実践を見学し、エッセンスを学んで学校全体で取り組みを行った。はっきりした効果を実感していたことから、本校でも学校全体で取り組むこととした。
■年度初めのPTA総会で校長先生から学習の意義を伝える。
4月のPTA総会で校長先生から辞書引き学習の意義を伝えて保護者に協力を依頼。1年生は2学期から、それ以外の学年はすぐにスタートした。
【校長先生作成「辞書引き学習について」のプリントより】
身の周りのものごとや教科書の言葉を国語辞典で調べる経験を積み重ねることは、自ら学ぼうとする意欲を高めるとともに、学習の支えとなる豊かな語彙力を育てる上で大変重要です。そこで、本校でも今年度「辞書引き学習」を取り入れ、学校生活のいろいろなところで国語辞典を活用しようと考えています。通常、国語辞典の使い方を学ぶのは3年生からですが、「辞書引き学習」を実践している立命館小学校では1年生から使わせています。(本校では、1年生はひらがなを学習し、学校生活に慣れた2学期中旬から使う予定です。)
つきましては、保護者の皆様にご理解・ご協力をいただき、児童一人に1冊の国語辞典を準備していただきたいのです。しかし、決して強制するものではありません。児童一人一人が自分の辞書を持ち、いつも身近に置いて調べた言葉に線を引いたり、付箋を貼ったりすることにより、どんどん自発的に学ぶ力が育っていきます。準備できない場合は学校の国語辞典を利用し、その都度元の位置に戻すようにします。
1.国語辞典の活用の例
・身の周りのものごとを調べる。 ― 朝の読書で
・テーマをもとに調べる。 ― ドリルの時間に
・教科書の言葉を調べる。 ― 授業で、宿題や自主学習で
家庭でも身近な言葉で分からないものがあれば、どんどん辞書を引かせてみましょう。たとえば、電気製品、家具、食品、ニュースに出てきた言葉などを「これは何の事だろう?」「何からできているか調べてみようか。」などと言って調べさせます。辞書を引く楽しさを知っていくと好奇心旺盛な子どもに育ちます。
(後略)
■辞書の銘柄は指定せず、複数の辞書を引き比べる。
使用する国語辞典は指定せず、複数の辞典見本を並べて自由に購入させている。
辞書引き学習に一斉指導はなじまないと考えており、複数の辞書を比べることの意義などを大事にしたいため。
■ふせんは、初回のみ支給
ふせんは最初の100枚を学校から支給し、その後は個人で購入している。
教師があらかじめ購入した分を小分けにして児童が購入できるようにしているクラスもある。辞書引きの途中でふせんがなくなり、せっかくの意欲をとぎらせないようにするため。
ふせんの束を使いきることが達成感となり、新しいふせんの束を手にする、というのが喜びになっている。
■学年ごとのお取り組み例
各学年ごと、発達段階に応じた取り組みを行っている。個人差はあるが、1年から6年まで、いずれの学年も楽しく取り組んでいる。
【1年生】
- 東京書籍の国語の教科書「かぞえうた」の学習の際に、自分達のかぞえうたを作ろう、ということで「ひ」で始まる言葉集めを辞書を使って行った。
- 生活科で出てくる植物について調べることもある。たとえば「楠」について、「花は咲くのかな?」「どんな木かな?」といったことを辞書を使って調べた。
- 1年生段階では、ふせんを貼るとともに、引いたことばに線を引く、音読する、ということを必ず併せて行うようにしている。
- 「ことばはかせになろう!」というプリントを準備し、ふせんの数が10,30,50といった区切りに到達した日を書き込み、達成感を持って持続できるように工夫している。
【5年生】
- 「辞書引きにチャレンジ」をテーマに、20語を書き込めるシートを準備。
雨の日の休み時間や、先に課題が終わった隙間時間を利用して楽しんでいる。 - 引いた言葉の解説の中でわからない言葉があったら調べる、という芋づる式に引く子どもが多いようだ。
【6年生】
- 「辞書引きにチャレンジ」をテーマに、各教科の中で興味を持ったり、わからなかったりした言葉を調べ、表に書き出していった。ふせんを貼るだけでなく、書き出して一覧にすることで、一層意欲が高まるようだ。
校長室ドアの張り紙
わからないことばに出合った時、「立ち止まる」ことができるようになったと感じる。わからないままに流すのではなく、「あれ?」と思って立ち止まる。それは言葉への関心が高まったことによる。
また、受け身ではなく、「自分はこれを調べたい」という思いが出てきた。辞書引きを続けることにより、「わからないことは調べればいいんだ」という学ぶための手立てががわかってきたこと、わからないことを置き去りにしない姿勢が出てきたことは非常に大きな効果。
1年生でも充分にことばを調べることができるし、全学年とも辞書を引くことそのものが速くできるようになった。
辞書引き学習のほか、論語など難しい文章の暗唱にも取り組んでおり、複合的な効果が出ている。学習状況調査においては、辞書引き学習を行った後「言語事項」の数字が上がるという効果が目に見えて出た。
音声と映像からの情報が非常に多くなっている現代だからこそ、静かに活字と向かい合い、読むことで情報を獲得するという時間は、意識的に大事にしたいと考えている。また、「教師こそが最大の言語環境である」という思いを大切に、子どもたちに接していきたい。
課題としては、辞書引きに対する意欲に個人差があることが挙げられる。辞書を引くことを、より楽しんで行えるような時間やワークシートを工夫していきたい。