辞書に貼ったふせんは、一度はがして
「わかっているノート」「むずかしいノート」に分類。
辞書引き後のノートの振り返りが、語彙の確認・定着につながっている事例
2013年2月取材
愛知県豊橋市立嵩山小学校
- ●学校概要
- 愛知県豊橋市(人口約38.1万人)の小学校。
全校児童数は約90名で、学級数は各学年1学級。 - ●お取り組み学年
- 1~5年生 ※今回お話を伺ったのは5年生のお取り組み
- ●お取り組みの開始時期
- 2011年度~
- ●お話を伺った先生
- 小林 恵子 先生(5年生担任)
深谷圭助先生の講演を聞いて感銘を受けたのがきっかけ。小規模校のため、あえて何も言わなくても互いの思いが伝わるようなところがある。そのため、子どもたちには、中学校という大きな集団に入った時に、コミュニケーション面で不自由しないよう、語彙を身につけてほしいと思っていた。語彙があれば、困った時に自分の思いを表現したり、考えを相手に主張したりすることができるので、今のうちに増やしておいてほしいと考えていた。
5年生の4月から本格的に辞書引きを開始。国語の時間だけでなく、他教科でも分からないことばは積極的に調べさせている。辞書にふせんが増えると使いづらくなるので一度はがしたが、その時、それらのふせんを「わかっているノート」「むずかしいノート」に分類させた。子どもたちは、この自分だけのノートを振り返って、同じことばを何度も引いていることに気づいたり、分からなかったことばが分かるようになったことを確認したりしている。
■ずっと使っていなかった辞書を5年生から本格的に使用
児童は3年生の時から辞書を持っていたが、当時は教科書に準じて辞書の引き方を教え、教科書の意味調べをする程度の活用だった。5年生になり、4月から本格的に辞書引きを開始したが、どの教科の時間でも机の上に辞書を置いて使わせたところ、多い子は約4000枚、その他の子どもも1800枚程度ふせんをつけた。たとえば、社会の時間だと「輸入」「黒字」「円高」、国の名前など、子どもたちの気になることばはたくさんある。「いつでも辞書を引いていいよ」と言っているので、とにかくよく辞書を引いている。10人という学級の人数が、ちょうどよい良い競争心を生んだのかもしれない。
■5年生になって、ようやくことばへの興味が出てきた
辞書は学校に置いていってもいいと言っているが、子どもたちは厭わず、毎日持ち帰り、家でもいろいろ調べているようだ。昨年度受け持った2年生は体が小さいからか持ち運びを嫌がったが、5年生は全くそんなことはない。ふせんを貼ることも喜んでやっているのは、ことばへの興味がようやく出始めたからではないかと思う。これまでは、周りの人と以心伝心で伝わっていて、ことばの少ない子どもたちだったから、自分の語彙が増えていくことに喜びを感じているのかもしれない。
■高学年から始める辞書引き
5年生で辞書引きを始める際は、国語の教材を使って知らないことばを引かせることから始めた。ただ、子どもたちを見ていると、知っていることばでも自主的に辞書で引いて、ことばの意味を確かめているようだ。ふせんが増えていくのは5年生でも楽しいようで、ふせんを貼り始めると子どもたちは自然に乗ってきた。
昨年度担任をしていた2年生と今年度の5年生を比べると、2年生は引きたい語を次々と引くのに対して、5年生は一度ことばを調べたら、意味までしっかり読みこんでいる。そこでわからないことばがあれば、関連した語をどんどん引いていっている。学校ではことばの意味まで読むように指導しており、10人しかいない学級なので声に出して読ませている。
■保護者にも成果がわかりやすいのがいい
ふせんを貼るのは成果が目に見えるのでとても良いと感じている。子どもたちは、保護者から「たくさん引いたね」と褒められるので喜んでおり、保護者も、つねに子どもたちが辞書を持ち帰り、辞書を引いている姿を目にしているので、ふせんを買うことに非常に協力的である。
■はがしたふせんは「わかっているノート」と「むずかしいノート」に分類
ふせんを4000枚も貼ると、はがれて落ちてくるし、辞書が膨らんで使いづらくなってくるので、冬休みに一度外すことにした。ふせんはただ外すのももったいないので、「わかっているノート」「むずかしいノート」に分類して貼った。ふせんを音順に並べているので、そのノート自体が自分だけのマイ辞典になっている。
ふせんの貼り方は人それぞれで、きれいに貼っている子のノートを見て、「こうすると見やすい、きれい」と、ふせんの色や大きさについていろいろとこだわりが出てくるようだ。
■記念になるだけでなく、学習を振り返ることのできるノート
「わかっているノート」の語は、最初から意味が分かっていた語もあるが、最初は分からなかったがそのうち分かるようになった語も含まれている。
「むずかしいノート」に貼ったふせんを、あとから「わかっているノート」に移したりもするので、ノートは常に進化し続けている。「むずかしいノート」の語が減っていくことが、子どもたちの達成感につながっているようだ。
最初は何でも引いていたので、あとになって見返すと「なんで私こんなことばを引いたんだろう?」と不思議がっている子もいた。
ノートはいま「わかっているノート」「むずかしいノート」の2冊だが、子どもたちからは「熟語ノート」「ことわざノート」「人物ノート」などに分類しても面白いね、と提案があった。
■「ニュース集め」と「辞書引き」の連動
辞書引きのほかにも、4月から、新聞を読んで毎日ニュースを二つ見つけるという活動をやっている。スクラップにするのは大変なので、「トキ誕生」など見出しをノートに書くだけの活動にしている。現在見出しが600ぐらい集まっている。
最初は見出しを書くだけだったが、最近は感想も書いている。夏にオリンピックがあったので盛り上がった。
子どもたちは「“イギリス” ってどこ?」「“金環日食” って何?」というところから始まったが、わからないことばはすぐ辞書で調べるようになり、「ニュース集め」の活動と「辞書引き」が連動した。
辞書を引くことで語彙力がつくと自分は感じている。1年弱辞書を引いてきた子どもたち自身が、「ことばの意味がわかるようになってきた」と言っている。
国語の力は急につくものではないのですぐにはわからないが、もともと課題に感じていた、小さな集団ならではの語彙の少なさは、少しずつ改善されているように思う。
自分たちの学校は人数が少ないので成功したが、大きな学校だと辞書を揃えるのも大変だし、授業の中で一斉に調べるということも難しいのかもしれない。