2009年度より、市内の全小学校3年生に市の費用で国語辞典を配布。
毎年教員向け研修を行い、各校で積極的な辞書引きへの取り組みがなされている事例。
2012年7月取材
佐賀県 唐津市
- ●市の概要
- 人口 約13.0万人
市立小学校数 33校 - ●お取り組み学年
- 3年生~(国語辞典)
- ●お取り組みの開始時期
- 2009年~
- ●お話を伺った方
- 唐津市教育委員会
学校教育課長 吉田道彦様
学校教育主事 栗本洋二様
学力の基盤である国語力を培い自己学習力を育てることを目的とし、「マイ辞書活用学力向上事業」として2009年より実施している。
市の費用で市内の小学3年生に国語辞典を配布。辞書引きについての研修をしっかりと行った上で、各校で積極的な取り組みがなされている。
■年間の流れ
- ①教育委員会が選定対象辞書一覧表を各校に配布
- ②各校が自由に銘柄を選択
- ③新学期
国語辞典と「辞書引き活用の手びき(指導者用・児童用)」を全校に配布
- ④7月
3年生教員向けに辞書引き学習研修実施
- ⑤2月
総括のためのアンケート(児童・教員・保護向け)を実施
次年度の方針に活かす
- ①に戻る
毎年、教員向け研修をしっかりと実施
■2009/7/28 マイ辞書活用研修会実施
【講師】佐賀市立若楠小学校倉﨑恵美子先生
■2010/7/30 マイ辞書活用研修会実施
【講師】唐津市立浜崎小学校 岸本佳子先生
辞書引き学習の「よかった」「困った」をグループディスカッション
ディスカッションで出た、共通の課題(一部抜粋)に対する岸本先生の参考意見は下記の通り。
岸本先生の参考意見
- Q.授業の中で辞書引きを行うには時間がかかりすぎる。よい区切り方等があるか。
- A.授業の中で、辞書引きに何分間使うかは、担任の先生の判断に任せます。たとえば、5分間と区切ると、子どもたちは時間内でどうしても終わらせたいと、辞書引きに集中し、スピードアップや競争心・やる気が育ちます。もし、できなかった場合には、休み時間や宿題にして、自分で調べたという満足感を味わわせることも大切だと思います。
- Q.次学年への引継ぎが大切である。最低限おさえておくべきことは何か。
- A.3年生では、教科書の単元【国語辞典の使い方】の目当てをしっかり読んで共通理解することが肝心です。さらに、この「マイ辞書」の取り組みで
・できれば毎日「マイ辞書」に触れる
・わからない言葉は「マイ辞書」で引く という意識を育てる
ことができれば、4年生での辞書引きがスムーズにいくと思います。 - Q.特に2学級以上の学年で辞書引き学習を行うにあたってどのような取り組み方があるか。
- A.ズバリ、足並みをそろえることが大切です。
辞書に関しては、3年生でその引き方を学習し、4年生以降、分からない言葉があれば目的に応じた種類の辞書を引いて、自分で意味を調べることができるようになることが目標です。
ですので、複数学級になるとどうしてもクラスによって温度差が出てきますが、そこは話し合いをして、基礎・基本はどのクラスも同じように押さえたいものです。使用するプリントの共有化・学年の取り組みが効果的です。
また、そうやって話し合ったり、悩みを相談する中から新たな方法が見つかるかもしれません。
深谷圭助先生
■2011/7/26 辞書引き学習講演会実施
【講師】中部大学現代教育学部准教授深谷圭助先生
【演題】「辞書引き学習のすすめ」
対象を教員だけでなく、3~5学年の児童と保護者にも広げて実施。
深谷先生による辞書引き学習のデモンストレーションを行って、児童と保護者が実際にその場で辞書引きに取り組むことで、家庭への周知並びに家庭でも辞書引き学習に取り組ませるきっかけとした。
保護者の声(抜粋)
- ・一緒に参加した子どもたちもスムーズに引き始め、120枚ほど付箋を貼りました。学んだ跡が残ることが子どもにとってこんなにためになるのか…と、新しい発見がありました。
- ・辞書引きの進め方を聞いて「なあんだそうか」と、心がおさまりました。わたしのほうが楽になりました。子どもがスポーツ感覚でやっているのを見ましたが、やる気スイッチが入ると別人のようです。
■2012/7/27 マイ辞書活用研修会実施
【講師】 ベネッセコーポレーション 木幡・佐々木
【内容】
- 辞書引きが広がった経緯と他県の取り組み事例
- 辞書引きの体験授業
- 小学生向け辞書はどのように作られるか
教員にとっての辞書引き学習の役立ち度や児童が積極的に取り組めているか、また、保護者がきちんと認知しているかなどの項目を年に1回アンケートによって確認している。
教員・児童・保護者のいずれからも、辞書引き学習への取り組みは高く評価されている。
■2011年度実施アンケート結果(抜粋)
【指導者】
■辞書引き学習に取り組まれてみてどうでしたか。
98%が、「とてもよかった」「よかった」と高い評価
■よかった理由(複数回答可)
辞書に向かうのみでなく、言葉そのものへの関心も高まっている
■特に効果があった、または、これから取り組んでみたい活用事例
- 付箋100枚ごとのミニ賞状や1000枚達成で校長先生から賞状
- 朝の時間に辞書を引く時間を5分間設定した
- 知っている言葉についても改めて辞書を引くことで理解が深まった
- 児童の中から辞書引きの競争やゲームを発案し、昼休みなどに遊ぶ場面が見られた
- 索引コンクールを行い、興味関心を高めた
- 算数、社会、理科の時間にも「長方形」「防火水槽」「しりぞけ合う」などの意味を調べて確認できた
- 漢字テストの予告の際に辞書引きを行わせるため、漢字の定着率が高まったように思う
【児童】
■辞書引きは楽しいですか。
85%が、「とても楽しい」「楽しい」と高い評価
■辞書引き学習でどんなことが役に立ちましたか
辞書引きに向かう姿勢のみならず、言葉の力がついたことを実感している
【保護者】
■学校で辞書引き学習が行われていることを知っていますか。
94%の保護者が、「よく知っている」「知っている」と、しっかり認知
■どのようにして知りましたか(複数回答可)
児童が家庭で辞書引きについてよく話題にしていることが伺える。
また、学校からの告知もよく保護者まで伝わっている。
■辞書引き学習の取り組みを来年度も続けてもらいたいですか
93%の保護者が、「ぜひ続けてもらいたい」「続けてもらいたい」と、継続を希望。役立ち度が高いことが伺える。
本事業開始の平成21年度から5か年計画の4年目。アンケート結果や学校訪問の様子などから、特に学習意欲の喚起という点において手ごたえを感じている。
今後は、本事業の効果をさらに精査し、より効果的な活用場面・活用方法を探るとともに、指導者研修の充実、指導事例の共有化を図りたい。